失敗から学んだ白杖なバラード

肌に感じる風はもうすっかり秋だ。この季節になると思い出すことがある。まだ、この目に視力が残っていた頃の失敗を。前にも書いたがちょっと見えていると白杖など持つことはおっくうで、気恥ずかしかったりするものだ。半盲とはそんなものだ。
話は親元を離れて関西で働いていた青臭い頃のことで、ピンクレディーがペッパー警部で華やかにデビューした当時の話である。高校を卒業したての僕は、白杖を持つことが気恥ずかしいというより、周囲から「目の悪い人」と見られることが嫌だった。そうした浅はかなことから目に障害のあることを必死で隠したり、外出するにも白杖を持たなかった。
その日は当時つき合っていた健常者の彼女の運転でドライブをした。ドライブインでトイレ休憩をして車に戻った僕が何のためらいもなく助手席のドアを開けると何となく雰囲気が違う。助手席に彼女より綺麗な女性が座っていて、その人と目があった瞬間、「きゃー!」とその人が大きな悲鳴を上げた。
僕は同じ色形の車のドアを開けてしまったのだ。それに築いて、「車を間違えました」、そう言うと僕は即座にドアを閉めて、その場からそそくさと立ち去ろうと足早に歩き出すと運転席から、だぼシャツを着たパンチパーマの男が降りてきた。どう見てもヤ○ザである。
僕は過去にも苦い経験があったので、その男に、僕が半盲であることを告げて車を間違えてドアを開けてしまったことを必死で謝った。男は聞く耳をもたない。見た目は健常者と変わらない僕、ましてや僕もリーゼントにスカジャン、そんな格好だ。目が悪いから車を間違えたなどという理屈は通じるわけもない。
男は血が上って僕がアベック狩りを仕掛けたものだとばかり思いこんで、「落とし前をつけろ」の一点張りだ。話にならない。僕はポケットから身○者手帳を出して男に見せて、本当に目の悪いことを説明したが、「そんなものは理由になるかい、ボケ」と手帳は破り捨てられた。
男は、「お前が連れている女の車のところへ連れていけ」と言う。連れて行くもない、彼女の車はすぐ隣に止まっていて中で彼女が震えてた。男は彼女には何もちょっかいを出すことはなかったが、僕への怒りは収まらない。「ちょっと顔をかせ」、男はそう言って僕を建物の裏手についてくるようにと歩き出した。僕はそんな男の後をビビりながらついていった。
その途中のことだ。緊張して歩いていた僕は車止めにけつまずいて前のめりに転んでしまった。おでこをアスファルトに強打して額が切れて流血した。ひざまづいて俯いてアスファルトにポタポタと垂れる自分の血を見て僕は、情けなくて泣きそうになったが歯を食いしばって涙をこらえた。
男はそんな僕を見下ろし、「兄ちゃん、ほんまに目、悪いんやな」と苦笑した。そこに助手席にいた女性が、僕の彼女と一緒に駆けてきて、「貴方、そのへんで勘弁してあげて!」と、男に言った。
男は、「こっこいつが勝手にこけおったんや」とか、何とかかんとか言ってたけど、「兄ちゃん、目が悪いんやったら眼鏡を掛けるなり、白い棒をもたにゃあかんで」、そう僕に言って女性を連れて去っていった。そのときに一緒にいた彼女とはしばらくして別の理由でフられてしまったが、青臭く苦い思い出である。
そうした実体験のひとつから僕は、弱視やロービジョンの人にも「白杖を使うこと」を呼びかけている。
長年白杖生活をしていると本当に色んなことがある。白杖を持たずに歩いていて車に跳ねられて死んだ親友もいる。白杖を持っていたが駅ホームから転落して命を落とした知り合いも少なくない。余談になるが、僕などは、白杖を持たずにお年寄りとぶつかって怪我をさせてしまったこと、散歩中の犬のリードが見えなくて、それにつまずいてトラブルになったこともある。
思いおこせば白杖を持っていればよかった、持っていて助かったことの方がはるかに多い。最近、弱視やロービジョンの人たちへの誤解や偏見をよく耳にするが、こんなジジイのお節介がましい話から、「全盲だけではなくて、少し見えにくい弱視やロービジョンの人たちも白杖を使う」ということと、白杖を携行することの意味や大切さをご理解いただけると幸いである。※文中の僕の視力は片目0.2。もう片方は義眼でした。その視力だと日常の生活にはとくに不自由はなかったですし、人の顔も見分けがつきました。大ざっぱに見えるけど、細かいものはよく見えないそんな状態でした。だからヤク○とわかったし、車止めにつまずいたのです。
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プロフィール

ちゃれんじぃ

Author:ちゃれんじぃ
毎日が色んなことへの挑戦だ!白杖への誤解や理解、日々のささいな出来事や感じていることを視覚障害者の視点からつぶやいています。アラヒフ世代・津軽三味線初心者・ジョギング・野球観賞・70年代フォーク&ロック・古きよき昭和をこよなく愛する全盲の伯父さんです。。

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