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無愛想なタクシー

若い頃はさんざんやんちゃをしていた僕だが年を取って丸くなった。
そんな爺だけど、いつだったか切れそうになったことがある。
その晩、全盲の妻と僕は隣町に外食に出かけた。
お店の人も親切で夫婦は心置きなく美味しい料理を堪能した。
子供たちが小さかった頃の話をしたりした。
久しぶりの夫婦でいい時間だった。
そんな帰路のことだ。
最寄りの駅で電車を降りると土砂降りの雨だ。
タクシーを使うことにした。
田舎駅なものでタクシー待ちの列もなく夫婦の前にタクシーが止まった。
しかしドアが開かない。
僕が車体を軽くノックしてみたけど反応がない。
「こりゃ誰かを迎えに来た人の車かな」と判断した僕は後ずさりをした。
すると夫婦の後ろに並んでいた男が「乗らないんですか」と聞いてきた。
「いや、乗ります」と返答をして僕は前に進み出て車体をノックしてみた。
今度はドアが開いた。
「さっきは何なんだったんだ」と思いながらタクシーに乗り込んだ。
運転手の声はない。
低調に行き先を妻が伝えても運転手の返事はない。
「わかりますかね?」と僕が付け加えると蚊の泣くような声で「はい」とだけ返事が返ってきた。
タクシー独特の硬い感触の座席で僕は身を硬くした。
「ずいぶん無愛想な人だな」。

何処へ連れて行かれるのかと不安を覚えながら車が進む気配に気を集中させた。
ゴトゴトという振動に、いつもの踏切をわたったなと一安心。
信号待ちの気配に、「ここは何処何処の交差点ですか?」と運転士に僕が尋ねてみた。
返事はないが車は走り出し次の曲がり角を左折した。
そうした気配に自宅への道は間違ってはいないことを確信したが怒りがわいてきた。
だが文句を言って何処かへ連れて行かれたらどうしようとか。
後で女房や子供が仕返しされたら困るとか。
楽しかった晩餐の夜を台無しにしたくなくて出掛かった言葉を引っ込めた。
こうなるとこんな奴を相手にしない方がいいという心情に変わった。
不安をよそにタクシーは目的の降車場所に止まった。確かに自宅付近の気配である。
女房が料金を尋ねると運転手は、蚊の鳴くような声で金額を口にした。
さらには釣り銭をもらうときに運転手の舌打ちを夫婦は耳にした。
それでも僕ら夫婦は「ありがとうございました」と運転士に告げてタクシーを降りた。
タクシーは濡れたアスファルトの音を次第に小さくして夜の待ちに消えていった。
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プロフィール

ちゃれんじぃ

Author:ちゃれんじぃ
毎日が色んなことへの挑戦だ!白杖への誤解や理解、日々のささいな出来事や感じていることを視覚障害者の視点からつぶやいています。アラヒフ世代・津軽三味線初心者・ジョギング・野球観賞・70年代フォーク&ロック・古きよき昭和をこよなく愛する全盲の伯父さんです。。

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