無人駅とカール叔父さん 2

以前に勤務していた職場がある無人駅のホームに、最初に降り立った僕は固まってしまった。
降車したディーゼルカーのエンジンの音のその大きさで情景や人の気配がまったくわからないのだった。
足元にあるはずの点字ブロックがない。出札口の方向もわからないし、僕は電車をやりすごしてから行動を考えることにした。
一両編成のディーゼルカーが気動車どくとくの大きなエンジンの音を轟かせ動き出した。
その音が遠く消えていくのを僕は、呆然と見送った。後には脂気を含んだ臭いが残った。
さて、どうしよう。僕は、大きく息を一度した。「何方かいませんか」、不安な気持ちを声にしてみたけど、周囲からは返事はなかった。
誰が決めたんだか、白杖のSOSサインなんざ、こんな田舎では通用するわけもなく、僕は意気消沈しかけた。
ただお地蔵様みたく突っ立っていてもしょうがない。僕は行動を起こすことにした。
電車は一時間に一本来るか来ないか、ホームから落ちたところで死ぬことはないだろう。僕の冒険心に火がついた。
ぴよぴよ、ぴよぴよ♪ やった!誘導ベルの音だ。助かったぞ。
僕は、白杖をその誘導ベルの音の方向に向けた。そして一歩一歩、摺り足で動いてみた。
「そっちじゃないよ」、突然線路の向こう側から大きな声がした。田舎なまりのある男の声だ。
男は続けた。「回れ右。そのまま前に進む」。
何だこのオッサンはと僕は瞬時に感じたのでこう聞き返した。
「出口はそっちなんですか?」、僕はオッサンに同じような声の大きさで返した。
「うんだ。いいから真っすぐ前へ進め」、オッサンが指示してきた。
僕は、誘導ベルの音が気掛かりだったけど、ここはオッサンに従うことにした。
白杖でホームのへりをなぞりながら僕は、オッサンに言われた方向へおっかなびっくり歩を進めた。
「よし、そこだ。左向いて。そのまま真っすぐ。行き過ぎ。そこそこ」、みたいな感じにオッサンの声の誘導で僕は、無事に無人の出札口にたどり着くことができたのであった。
僕は、オッサンに、「ありがとう」と大きな声でお礼を言った。
「おー、気をつけていけやー」と、オッサンが僕の声に負けない大きな声で返してきた。
次回へ続く。
誘導ベルだと思っていたピヨピヨの音は、その後、本物の野鳥だったことに気がつきました。
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プロフィール

ちゃれんじぃ

Author:ちゃれんじぃ
毎日が色んなことへの挑戦だ!白杖への誤解や理解、日々のささいな出来事や感じていることを視覚障害者の視点からつぶやいています。アラヒフ世代・津軽三味線初心者・ジョギング・野球観賞・70年代フォーク&ロック・古きよき昭和をこよなく愛する全盲の伯父さんです。。

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