コンドーム

最近、よく昔を懐かしむようになった。年を撮った証拠だと愛娘が笑う。
僕は強度の弱視で半生を過ごしてきた。
右目は0.2程度の視力、左目は義眼であった。
そんななりに苦労はしたが生活するには特には不自由はなかった。
ガキの頃は、片目のジャックだの義眼をネタによくからかわれたものだが、生まれつき目の見えない友人達よりは幸せなのだと、子供心に思っていた。
僕の見えていた片目は本当によく働いてくれた。
わずかばかりの視力だったが全盲の友人達には重宝された。
盲学校で学んでいた頃は、全盲の友人達の手を引いたものだ。
僕の肘につかまらせ校庭を走り回ったり、気になる異性の外見を伝えたり、一緒に買い物にも付き合った。
社会人になってからは、男友達を連れ立って、パチンコにも行けば女も買いに行った。
こんなことがあった。
後輩の男に彼女ができた。そいつもやはり全盲である。
コンドームを買いに行きたいとお願いされた。
生意気にもまだ高校生の頃だ。
近所に薬局があって僕らは暗くなってから連れ立って出かけた。
場末の薬局で通りには人通りはなく、店頭に設置されたコンドームの自動販売機の明かりが目立っていた。
誰かに見られてはと僕らはびくびくと自動販売機の前に立った。
奴から手渡された小銭が汗ばんでいたことを今でも覚えている。
小銭を入れる音がやけに大きかった。
僕は奴の指を誘導してボタンを自分で押させた。
ガチャン!という音が響いた。
小さな箱が出てくるだけなのに、こんなにも大きな音がするものかと肝を冷やしたものだ。
と、そんなとき!背後から甘い香水の香りがした。
それと動じに僕らは、ぶっとい腕に肩を抱かれた。
固まる僕らの耳元に聞こえた声は野太い中年男の声であった。
「仲良くしようよ」と、その男がいった。
腕を振りほどいてそいつから逃げようとしたけど凄い力だった。
どうやら僕らは、ホモと勘違いされたらしい。
男には、事情を説明して開放してもらったが思春期の僕らには恐怖であったことは言うまでもない。
ペッパー頸部よ♪そんな歌がラジオから流れていた古い頃の話で在る。
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死ぬかと思った

危なかった。
仕事を終えた帰路のことであった。
冷たい向かい風を受け僕は県道の端を身を隠すように歩く。
歩道が整備されていないので
側溝のわずか30cmばかりのふたの上が歩道の代わりである。
僕はそのスペースからはみ出さないように白杖を地面をはわせるように突く。
僕の真横を車が次から次にと背後から通り過ぎていく。
前方不注意の車にでもつっこまれたら僕は即死することだろう。
僕にできる防衛策は明るい色の服を着ることと車道にはみ出さないことくらいだ。
そんな県道の先にあるのがいつもの交差点である。
僕はこの日もその場所に足を止めた。
ピヨピヨの音のしない信号機なので青なのか赤なのかは車の往来から判断するしかないのである。
僕は四方八方の車や自転車、人の気配に全神経を集中する。
その日も車はこないなと判断し、自分の中では「信号は青」と決めつけて横断し始めた。
ちょー緊張する瞬間であったが左方向からトラックの音が迫ってきた。
どうにか渡り終えた僕の背後を通り抜けたトラックの音に震えが止まらなかった。
この話はこれで終わりだが先日、通勤の道をスマホを動画モードにして歩いてみた。
興味のある方は視聴してみてください。
僕のような、いや、それ以上の危険な思いをしている障害者は他にも大勢います。
何かのお役に立てることを願い動画を作ってみました。
https://youtu.be/Z1ib2UHE510https://youtu.be/Z1ib2UHE510

年は取りたくないな

池波正太郎の小説を読み進めていると点字をなぞる手が止まった。
今回のお話は物語の感想ではなくて年を取った僕自身のぼやきにお付き合いください(笑)
僕は、時代劇が好きでよく読むんですが人物を表現する描写にがっかりします(笑)
例えば、喜助は五十半ばを過ぎた老人である。そんな表現にはっとさせられるんです(笑)
昔は、五十歳はもう老人だったんですねー。
僕も気がつけばそんな年になりました。
その時代に今の僕がいたとすると、その座頭は髪の頭髪に白いものが混じった、五十八になろうかという老人であった。となります(笑)。
感化されやすい僕は自分と重ね合わせてしまいます。
昔と今は、確かに違うけれど、最近の僕もすっかり年を取りました。
歩く姿勢も気がつくと猫背になっていたり、歩く歩幅も狭くなりました。
テーブルに向かう姿勢にもはっとさせられます。気がつくとやっぱ猫背になっているんです(笑)
僕のランニング歴はかれこれ三十年になりますが以前の輝きはないです。
駅ホームから転落したときに腰骨を折ったときの後遺症は十年近く経った今もあります。
膝の半月晩も痛めているので口には出しませんが、僕が走るときはそこかしこの痛みをいつも伴います。
これは仕方ないことだけど、僕から走ることを取り上げたら何も残らないから走ります。
走る度に、こんなはずじゃなかった!と、強く感じてしまうのも年を取った証拠です。
感は悪くなるし、小便の切れは悪くなるし、朝立ちしなくなったし、年は取りたくないねー。
これからは甥との戦いになります(苦笑)
そういえば女性とみるやすぐに近寄り話したり触ったりするバカ男は、気持ちだけは若いな。
ちゃれんじぃの美学として、僕はどんな場面でも紳士に威風堂々としていたいというポリシーがあるが。僕も色を好んでみようかな。
あはは、冗談です(笑)

小さな親切と小さな男の子

その日僕は、自宅がある最寄り駅のホームに一人で電車を降りた。
都心で丸一日を過ごした帰りで一呼吸おいて吸い込んだ空気がやけに旨く感じる秋の夕暮れであった。
電車をやり過ごし、人の流れや階段のある方向を確かめて僕はゆっくりと歩みを進めた。
人々の雑談に混じって僕が突く杖のコツコツという軽い音が響く。
そんな音につられてか、盲目の爺が気にとまったのか、五つ六つくらいの男の子がこそっと言った。
「ママ、あの白い棒なーに?」。
母親らしき人は遠慮がちの小声で男の子に何か話をしている。
「あの叔父ちゃん目が見えないの?」男の子が聞く。。
母親、僕に向かって「すいません。この子ったら」。
僕は、いいんですよと 苦笑いで返す。
「あんな人を見たら声をかけなきゃ駄目って先生がいったよ」。
男の子が続ける「あっ!ぶつかりそう。危ないよ、ママ」。
母親、僕に向かって「本当にすいません」。
僕、「いえいえ、優しい子供さんですねー」。
「僕はいい子だな」と男の子に僕は言った。
男の子が「何かお手伝いしましょうかって聞くんだよ。ママ」って言ってるし。
母親は、困惑しながら「私につかまりますか?」と聞いてきた。
僕は男の子に、「叔父ちゃんを改札まで連れていっておくれ」と言ってみた。
すると小さな手が僕の空いている手をつかんだ。
男の子は何を話しかけても「うん」と恥ずかしそうに返事をするだけだったが僕を改札口まで手引きしてくれた。
親子と別れ際に僕は、男の子の顔の高さに腰を落として「僕、ありがとうな」と優しくお礼を言った。
そして親子を見送る僕。
「ママ、いいことをしたねー」と男の子の声が聞こえてきた。田舎の駅ロータリーのあちこちから秋の虫の声がしていた。

無愛想なタクシー

若い頃はさんざんやんちゃをしていた僕だが年を取って丸くなった。
そんな爺だけど、いつだったか切れそうになったことがある。
その晩、全盲の妻と僕は隣町に外食に出かけた。
お店の人も親切で夫婦は心置きなく美味しい料理を堪能した。
子供たちが小さかった頃の話をしたりした。
久しぶりの夫婦でいい時間だった。
そんな帰路のことだ。
最寄りの駅で電車を降りると土砂降りの雨だ。
タクシーを使うことにした。
田舎駅なものでタクシー待ちの列もなく夫婦の前にタクシーが止まった。
しかしドアが開かない。
僕が車体を軽くノックしてみたけど反応がない。
「こりゃ誰かを迎えに来た人の車かな」と判断した僕は後ずさりをした。
すると夫婦の後ろに並んでいた男が「乗らないんですか」と聞いてきた。
「いや、乗ります」と返答をして僕は前に進み出て車体をノックしてみた。
今度はドアが開いた。
「さっきは何なんだったんだ」と思いながらタクシーに乗り込んだ。
運転手の声はない。
低調に行き先を妻が伝えても運転手の返事はない。
「わかりますかね?」と僕が付け加えると蚊の泣くような声で「はい」とだけ返事が返ってきた。
タクシー独特の硬い感触の座席で僕は身を硬くした。
「ずいぶん無愛想な人だな」。

何処へ連れて行かれるのかと不安を覚えながら車が進む気配に気を集中させた。
ゴトゴトという振動に、いつもの踏切をわたったなと一安心。
信号待ちの気配に、「ここは何処何処の交差点ですか?」と運転士に僕が尋ねてみた。
返事はないが車は走り出し次の曲がり角を左折した。
そうした気配に自宅への道は間違ってはいないことを確信したが怒りがわいてきた。
だが文句を言って何処かへ連れて行かれたらどうしようとか。
後で女房や子供が仕返しされたら困るとか。
楽しかった晩餐の夜を台無しにしたくなくて出掛かった言葉を引っ込めた。
こうなるとこんな奴を相手にしない方がいいという心情に変わった。
不安をよそにタクシーは目的の降車場所に止まった。確かに自宅付近の気配である。
女房が料金を尋ねると運転手は、蚊の鳴くような声で金額を口にした。
さらには釣り銭をもらうときに運転手の舌打ちを夫婦は耳にした。
それでも僕ら夫婦は「ありがとうございました」と運転士に告げてタクシーを降りた。
タクシーは濡れたアスファルトの音を次第に小さくして夜の待ちに消えていった。
プロフィール

ちゃれんじぃ

Author:ちゃれんじぃ
毎日が色んなことへの挑戦だ!白杖への誤解や理解、日々のささいな出来事や感じていることを視覚障害者の視点からつぶやいています。アラヒフ世代・津軽三味線初心者・ジョギング・野球観賞・70年代フォーク&ロック・古きよき昭和をこよなく愛する全盲の伯父さんです。。

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